2016-07

名前

 つい先日、大学の恩師に会いに行ってきた。
 別段、何か用事があったわけでもなく、友人とふたりで「会いたいね」とずっと言うばかりだったことを実行したにすぎない。
 およそ二年ぶりであった。
 二年前に会いに行ったのは、私が前職を辞するときで、その報告のためだった。いくつもあった「辞める理由」のうち、私はひとつだけを先生に伝えた。
「書くことで、がんばっていきたいんです」
 それを聞いた先生は、不機嫌そうに、呆れたように私に言った。
「書くために働くことをやめるの?皆ね、働きながら書くものなんですよ。一生のうちに名作なんて一作書ければいい方なんだから」
 私は曖昧に笑ってその場を去り、帰り道で地団駄を踏んだ。

 くっそう。
 チクショウ。
 悔しい。
 でも、その通りだ。
 先生が正しい。
 くっそう。
 チクショウ。
 絶対、絶対、書くことで生きてみせる。

 当時、すでに何作も書いていたけれど、先生にそれを渡すことはできなかった。できなかったことが、先生の言葉の正しさを裏付けるなによりの証拠だった。名作だと自分で思えるのならば、何を言われたとしても胸を張って本を渡せただろう。
 二年ぶりに会いに行くときも、渡すつもりはなかった。けれど、一緒に会いに行くことになっていた友人が「渡すべきだよ。読んでもらうべきだよ。先生はきっと喜ぶよ」と言うので、書いた作品をすべて(売り切ってしまって品切れになっているもの以外)持って行った。その中には、二年前にすでに書き上げていた作品も含まれていた。
「すごいねえ、何それ」
 250pの厚さの私の本を、先生は笑顔で開いてくれた。
「なかなかリズムのいい文章じゃないですか」
 と言ってくれた。……のはいいが、目の前で音読し始めたので私はわーぎゃー叫んで悶絶した。
 先生が二年前に言ったように、私は今、働きながら書いている。前職よりも時間的余裕のある、前職よりも低い賃金の、前職より環境の良い職場での勤務だ。大変有難いと思っている。
 けれど、それは「勤務」であり、私にとっての「仕事」は書くことだ。
 絶対書くことで生きてみせる、という思いは日々強くなっている。
 ゲームのお仕事や、ウェブ記事のお仕事をさせていただけるようになって更に、自分はまだまだだと思う。
「紺堂カヤさん、ですか」
 表紙に書かれた私の名前を、先生が読んで、呼んだ。
 学生時代には、当然だけれど、一度も呼ばれたことのない名前だ。
「書き続けてくださいね」
 先生はそして、そう言った。

 はい。
 書き続けます。
 私は、紺堂カヤです。
 この名前で、書き続けます。


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プロフィール

紺堂カヤ(華夜)

Author:紺堂カヤ(華夜)
文筆家。
日々悪戦苦闘、ただしマイペースに。
文学と声をこよなく愛する。
二つ名は「筆舌破天候ガール」
創作サークル「つばめ綺譚社」にて小説を書いています。
また、クラウドゲート㈱のWTRPG「ファナティックブラッド」にてシナリオをリリース中。

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