2017-06

お恥ずかしながら読んでいませんでした日記③ 一千一秒物語

稲垣足穂は読んでおくべきだ。
と、そのように自分で決定付けてから、なんと十年が経過しています。年月の話を持ち出しておいて何ですけれども、この際に私が現在いくつなのかということは関係がないので詳しく追わないことにします。
とにかく、読みたいと思っていたくせに十年もかかってしまった、という、私の情けなさを露呈する前置きから始めましたけれども、今年中に読むと宣言していたうちの一冊『一千一秒物語』を読みました。
まずは一言で申し上げると。
やはり読んでおくべきだった。
でしょうか。確信を持ち、決定付けた自分は間違っていなかったとかそういうことはいいとして、何が一番そう思わせたかというと「誰にもどうしようも真似できない」という点です。
一見、「私でも書けそう」と思ってしまいそうな、短い物語が並んでいるのですけれど、どれひとつとして真似することはできないのです。
洒脱さ、皮肉、気迫。孕んでいるものは様々ですが、一貫しているのがそうした「内包された要素」を受け取れていると思うことが思い上がりなのではないか?という疑惑が拭えないことです。
右往左往で「一秒」を繰り返すうちに終わっている。読み終わったけれど、読み終わって立っているこの場は、きちんとゴールなのかもわからない。
私は読んでいる間、とかくそういう混乱を味わいました。
しつこく登場するモチーフは月、少年、猫。
それらに単純にわくわくさせられつつも、不安と疑問と混乱を持たされていたわけです。
読んでおくべきだ、と決定付けてから十年が経過した、と書きましたけれども、十年前に読んでいたらただ「変な話」として片付けてしまったかもしれず(それはそれでいいんだけど)、そういう意味では、十年越しの今こそが、私が足穂を読むタイミングだったのかもしれません。

今回私が手に取ったのは新潮文庫版で、他の作品もたくさん収録されていたのですが、私はその中で特に『黄漠奇聞』が好きでした。ゾッとする空気。美への執着と狂気。たまらないですわ……。
次は十年もかけずに、別の作品も読みます。

お恥ずかしながら読んでいませんでした日記②『外科室』

2017年中に読む、と定めた「いつか読もうと思っているが読めていない本」の中の、第二冊目でございます。
前回一冊目として報告をあげたのが、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』という大長編でございましたが、今回は打って変わってごくごく短い短編でございます。
泉鏡花『外科室』。
以下、「今更お前ごときに言われるまでもないことだ」というような感想が書き連なってございます。どうぞご容赦くださいますよう、平にお願い申し上げます。

本当にお恥ずかしながら、わたくし、泉鏡花をきちんと読んだことがございませんでした。
作家の生い立ちや経歴についての知識はありましたし、実に有名な作品ばかりですから、作品のあらすじだけは知っている、というものは多くありました。ですが肝心の作品文章そのものをしっかり読んでおらず、いわゆる「知っているつもり」でいたというわけでございます。
それではいけない、いけないというかもったいない、というわけで、このたび金沢の「泉鏡花記念館」を訪れる予定になっていたこともあり、きちんと読みました。
数ある鏡花の作品の中で、なぜ『高野聖』でもなければ『婦系図』でもなく『外科室』だったのかというと、これはもうごく単純な理由です。あらすじがもっとも、心魅かれるものだったからです。(今後『高野聖』等も読んでいく所存ですが!)
あまりに有名な作品ですので、もはやネタバレも何もないと思ってどんなお話であるかを簡単に書いてしまうと、『外科室』は胸の手術をする伯爵夫人が、手術の際に麻酔をしないでほしい、と言う。理由は、「麻酔で眠っている間にうわ言で秘密を話してしまうかもしれない」から。秘密、それは伯爵夫人の恋心……。
ストーリーという意味で言えば、これでほぼすべてです。なんともあっさりしたあらすじになってしまうのですが、あらすじ以上のものを受け取るにはやはり、本文を読まなければなりません。
そう、あらすじだけを知っている、「知っているつもり」になっていた私に、見事に往復ビンタをかましてくれました。
限界までそぎ落とされたエピソード、選び抜かれた言葉と考え抜かれた文章。それらによってつむぎだされる、濃厚な一瞬の美しさ。
先程、「伯爵夫人の恋心」と書きましたが、本文中にはそんな無粋な表現はしてありません。はっきりと「こうだったのだ」という言葉のないままに進むのに、いかにも強く読者を揺さぶり、苦しくすらさせるのです。
もう、もう、本当に素晴らしくて、感想を書けば書くほど、あまりの伝わらなさに自分の力不足を痛感します……。
今まで読んでいなかったことを恥ずかしく思うと同時に、けれど、たとえば学生時代に読んでいたとして、これだけの感動を覚えることができただろうかというのはいささか疑問ではあります。学生時代の私の読書は、文章や言葉選びよりもストーリーに重点を置きがちだったからです。それを思うと、このタイミングで読むことになったのも単なる「今更」ではないような気もします。
なお、今回私が読んだのは岩波文庫の『外科室・海城発電 他五篇』でございました。そこに収録されていた作品、どれもとても良かったです。『義血侠血』は特に良かった……。
読んでいなかった、ということを恥じつつ、これからも書き連ねていく「お恥ずかしながら読んでいませんでした日記」ですが、このまま、読まぬまま、死んでいくよりは今更でもなんでも読んだほうがいい、と改めて思った次第でございます。

今更でもなんでも、鏡花のほかの作品も、どんどん読んでいこうと思います。

金沢の文豪に会いに

気が付いたらすっかり春も深くなってきておりました。
今年の桜も綺麗でしたね。
名古屋で桜を堪能したのち、少し北へゆきました。
金沢です。
4/16の文学フリマ金沢へ出店いたしまして。当日の朝では会場入りに間に合わぬ、ということで、前乗りをして、前日に金沢観光をしておりました。
まだぎりぎり、桜が見られました。わんさと咲いて、どんどん散っていくところでした。美しかったです。
金沢は何度も訪れたことがあり、兼六園は雪の頃にも雪のない頃にも見させていただきました。どちらもよいですよねえ。
ですが、数ある文学館のたぐいにはひとつも行くことができていなかったので、今回はそれらを巡ることにしました。
どうしても、交通の事情で昼ごろにしか金沢へ着くことが出来ず、目当てであった四つの文学館をすべて巡るのは不可能に近いと金沢の方(文フリ事務局の方がわざわざ教えてくださいました;)に言われていたのですが、「時間管理を気を付けて、駆け足で回れば行けないことはないのでは!?」と詰め詰めなスケジュールを立て、回ってみました。
と、いうわけで、訪れた文学館について以下に簡単に感想や紹介を書いてみました。


泉鏡花記念館
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とても綺麗で趣のある建物でした。展示室は小さいながら工夫のこらされたケース配置と展示品で、調度のあたたかみもあり、鏡花の雰囲気をしっかりと伝えるものでした。
鏡花はまだ勉強中で(『外科室』等をようやく読んだのでまた報告を書きます)あらすじしか知らない作品も多くあったのですけれども、愛用の品々や初版の冊子、原稿などはもう、目の前にするだけで心が震えました。
『義血狭血』を読んでおいてよかったと思いました……。
受付におられたお姉さん(学芸員さんかしら)がとても親切で、バスの路線をたずねたところ丁寧位に調べてくださり、大変お世話になりました。ありがとうございました。

徳田秋聲記念館
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泉鏡花記念館の川向こうにあり、これまた実に綺麗な記念館でした。年表があったり、作品中の女性をモチーフにした人形があったり、邸宅を再現したものがあったりと楽しめました。
二階にあがると、大きな休憩室があって、そこから浅野川が一望できました。これがもう素晴らしい眺め!
お恥ずかしながら私は、秋聲作品は『黴』しか読んだことがなく、その上あまり好みではないなあ、と思ってしまったのでその後が続かなかったのですが……、二階の展示室ではちょうど、息子・徳田一穂を取り上げた企画展示を開催していて、一穂の「私は『黴』に出てくる、あの子どもである」というような言葉から展示が始まっていて。胸に来ました。
他作品も読んでみることにします。『縮図』がいいかなあ。

室生犀星記念館
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兼六園をぐるっと半周して、犀川の程近くにありました。ここもまた真新しい、綺麗な記念館でした。
展示品ひとつひとつにつけられているキャプションが丁寧で、じっくり見ることができたのが嬉しかったのですが、私の詰めすぎなスケジュールのために急ぎ足だったのが残念……。身に着けていた帽子などが見られたのにときめき、犀星の作品の多さに改めて感服し、未読のものを必ず読もうと決意を新たにしました。
これまでの三館の中でもっとも、ミュージアムグッズが豊富であり、デザインも秀逸であると感じました。犀星の詩集の初版表紙をモチーフにしたブックカバーは全種買い占めたいほどでした。

四高記念文化交流館(石川近代文学館)
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レンガづくりの校舎が美しい建物。その名のとおり「第四高等中学校」であった建物を利用して展示がされていました。金沢の文豪を紹介する展示は、お洒落でスマートなコーナーと、いかにも古臭い昭和に作った展示、というコーナーとが入り混じっていて面白かったです(笑)
期間限定の特別展示で、鏡花の『義血狭血』の決定稿が公開されており、個人的にタイムリーなことが重なるなあ、と思っていました。素晴らしい筆致でした、舐めるように見てきました。
駆け足で回ったラストだったので、四高に関連する展示はぼーっと見てしまい、ちょっと申し訳なかったです……。


と、行きたかった文学館関係を制覇し、文豪の生き様や作品への姿勢を学び、自分の未熟さを思い知り、精進しようという気持ちを大きくし、得る物の多い一日でございました。
金沢は本当に、見るものも多いですし食べ物も美味しいですし、何度行ってもいいところですね。今回で四度目くらいでしたが、また行きたいと思います!

さて。
来る4/30(日)は地元名古屋での、名古屋コミティア50でございます。
2スペース取って、気合を入れて参加致しますので、どうぞよろしくお願い致します。

お恥ずかしながら読んでいませんでした日記① 『カラマーゾフの兄弟』

随分と春らしくなってまいりました。今日などは、たっぷり鶯の鳴き声を堪能することができました。まるでお手本のような「ホーホケキョ、ピチチチチ……」。美しかったです。
さて。
わたくし紺堂カヤ、年末年始に、「いつか読もうと思っているが読めていない本」の中から十冊をピックアップして今年中に読むことを目標としておりました。また、読み終わったら感想を書く、と宣言いたしました。
その中のひとつ、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』を読み終えましたので、宣言どおり、読んだあとの感想を書かせていただこうと思います。「お恥ずかしながら読んでいませんでした日記」、ここからスタートと相成ります。
なお、できるだけ配慮はするつもりですが、「これから読むので内容を知りたくない」という方は以下、お読みにならない方がよろしいかと思います。物語の筋にまったく触れずに感想を書くのはやはり無理があるので……。


と、いうところまでを前書きとさせていただきまして。
本当にお恥ずかしながら、わたくし、ドストエフスキーをそもそも読んだことがございませんでした。
なので、『カラマーゾフの兄弟』が私にとっての「初ドストエフスキー」となったわけでございます。
誰に媚びることもない自己満足の感想文なのですから、率直に書かなければ意味がありませんので正直に申しますが、とにかく、長い。ええ、長いのです。これはもう読み始める前からわかっていたことで、実際に読み始めるまでのハードルとして最も高いものであったのですが、何の誇張もなく、長い。
しかしながら、長いわりにダダダッと勢いよく読み進めることができたな、というのもまた正直な読後の印象でございます。まるで、ジェットコースターのような加速で読みきりました。
とはいえ、ジェットコースターの加速というものは下るときに起きるもの。つまり、一度は上がらないといけないのです。その「上がっていく苦しみ」がまさに冒頭にあります。物語の主人公である「三兄弟」の父親、フョードル・カラマーゾフに関する記述なのですが、これがなかなかに読むのがつらい。ここで挫折した方はきっと多かったのであろうと思われましたし、実際私もここで挫折しかかりました。
ですが、なんとかここを乗り切ってしまえばあとは加速するばかり!
『カラマーゾフの兄弟』を愛してやまぬ友人から「最高のエンターテイメントだよ、キャラ読みできるよ!」と言われたとおり、実にエンタメ性も強いものとして読むことができました。
読み方として私が一番楽しかったのは、「三兄弟」の中から「推し」をみつけること。以下、三兄弟の印象を述べておきます。紹介ではなく、私が読んで感じた印象、です。
長男・ドミートリィは大胆で豪快で「カッコいい男」の雰囲気を持ち合わせているのに考えが浅くていろいろとトラブルを起こす人物。際限なく繰り出されるおしゃべりは時に朗らかで時に情熱的で……、時に支離滅裂。こいつバカなのでは!?と思うこともあれば、でも彼の姿こそが人間というものだよな、と思わされることもあり、非常に目が離せない存在。
次男・イワンは理論派で実質的で「賢い男」そのものという感じなのに、その賢さゆえの繊細さで自分の考えと周囲の考えに苦悩させられてしまう人物。お硬く筋の通った話し方は時に人を引きつけ、時に人を遠ざける。お前もうちょっと楽に生きてみたら!?と思うんだけれど、それができないところがむしろ良い、というねじれた魅力を持つ存在。
三男・アレクセイは清純で正直で慈悲深い「神の子」のような青年。感じやすく、その分傷つきもするけれど、決して弱くはない、芯のしっかりした考えと話し方を持つ。初めはなんて可愛らしい!と思うんだけれども次第に、この子本当に人間なのかな!?と思えてくる、清く正しすぎていっそ恐ろしくなってきてしまうという不思議な存在。
とまあ、それぞれとても魅力的なんですけれども、その中での私の推しは次男のイワン。いやー、もうホント「お前の気持ちはよくわかる!!!」と目の前で首を縦に振りまくってやりたい気持ちですわ……。
これだけ三兄弟の描写が素晴らしい作品であるだけに残念だったのは女性の描き方なんですけども(いかにも男性が偏見で書いた、そしてその偏見を微塵も悪いとは思っていないまま書いた、というような失笑を禁じ得ない女性像)、まあこの時代のロシアの男性作家ならば仕方がないのかなあ、という感じですか……。
まだまだ、語り尽くせていないのですけれども、もうすでにかなりの長さになってしまいましたので、このあたりにしておきます。
繰り返しの発言にはなりますが、まとめると。ロシア文学を読んだ、というよりはかーなりかーなり上質なエンターテイメントを見ることができた、という気持ちです。
今回私は新潮文庫の原卓也訳を読んだのですが、訳によってもまた違う楽しみ方ができそうですので、もうしばらくあとにでも、違う訳で読んでみたいと思っています。
『カラマーゾフの兄弟』、死ぬ前に読むことが出来て本当に良かったです。



こういうような話もできる、紺堂カヤ主催の読書会「まどろみ読書会」は、現在参加申し込みを受け付けております!
どうぞ奮ってご参加くださいませ!


長く伸びた影を

寒い日が続いておりますね。

全国的に大寒波に見舞われ、雪でお困りになった方も多いのではないでしょうか。

私も困ったひとりですけれども。

さて。

ここ最近にしては珍しく、更新のスパンが短くなりましたが、特に急なお知らせがあるわけではございません。

当ブログ「未完成まじっく」をちょっとすっきりさせました、というお話です。

と、いうのは。

過去の記事をザクッと消しました。

なぜ急に、という感じではありますが、特にはっきりした理由があるわけでもないのです。ただちょっと、後に長く伸びすぎているな、と思いまして。

実は当ブログ、すでに開設から10年を数えております。

この間、一度も過去の記事を消すことなくただただ更新を積み重ねてきたのです。開設当初のことをご存じで、今も継続して読んでくださっている方はほとんどおられないと思います。現在覗いてくださっている方でも、わざわざ10年も前の記事までさかのぼってチェックする方もそうそういらっしゃらないでしょう。

……とはいえ。10年も前の記事を放置しておくだなんて、我ながら恐ろしいことをしていたものです……。

削除するにあたってザッと目を通してみましたが、そりゃあもう恥ずかしいこと恥ずかしいこと!

内容が、というよりも語り方が恥ずかしい(まあ内容が恥ずかしいことも多々ありましたけども)。よくもまああんなテンションで書けたものだと思います。

この10年間、自分はさして成長していないなあ、と思っていたのですけれども、あれらを読んで、少なくとも最低限の成長はできているようだと奇妙な安堵をいたしましてございます。……まあ、ツイッターにおいては今も似たようなテンションで程度の低い発言をしておりますから、実際のところはそう変わっていないのだと思いますが。

ここまでを読んで、「へええ、そんな記事が」といまさら興味を持った方がいらっしゃったとしても、もう消してしまったあとなのですよ……。

いわゆる黒歴史に関する記事を消したわけですが、別にその頃の自分を否定したいとかなかったことにしたいとかそういう重々しい思惑ではないんですけどね。

きっとこの記事だって、もう10年後に読み返したらきっとひどく恥かしい気持ちになるのだろうと思います(10年後にこれを読み直す機会や方法があれば、ですが)。

ブログ記事はともかく、小説に関しては、何年後に読み返すことがあってもここまでの恥ずかしさを感じることはないのかもしれない、と思います。恥ずかしさを感じることがあってはならない、とも思いますし。……着地点が不明になりますのでこのテーマを掘り下げるのはひとまずやめておきます。

 

 

さて。

文フリ京都まであと数日でございます。期待と不安を胸に(つばめ綺譚社、直参はカヤのみです!)冬の京都へ参ります。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

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プロフィール

紺堂カヤ(華夜)

Author:紺堂カヤ(華夜)
文筆家。
日々悪戦苦闘、ただしマイペースに。
文学と声をこよなく愛する。
二つ名は「筆舌破天候ガール」
創作サークル「つばめ綺譚社」にて小説を書いています。
また、クラウドゲート㈱のWTRPG「ファナティックブラッド」にてシナリオをリリース中。

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